〜5〜



(ざまをみろ)

店を出て雑踏の中に紛れても、まだぼくの手は震えていた。

怒りのまま進藤を殴り続けたその興奮が抜けないらしく、気が付けば足も細かく震えていた。

殴りつけた時の進藤の驚愕したような顔を思い出していい気味だと思い、思いながら同時に泣き出しそうになってしまった。

彼はやはり浮気者だった。

どうしようも無く軽薄で恋人としての誠意の欠片も無い嘘つきだったのだと思うと、わかっていたこととはいえ心が引き裂かれそうに痛んだ。

「もう……なんだってこんな…」

ぼくはこんなみっともないことをしなければならなかったんだろうか?


道に沿って続く賑やかな店のショーウインドーには自分の姿が映っていて、髪はかなり乱れていたものの、それはやはりまだ男では無く女に見えた。





これでもう当分、進藤をコンパに誘う者はいないだろう。

誘ったとしても嫉妬深い恋人が乱入して来た「事件」は棋士仲間にいつまでも語り継がれ、引かれることは間違い無い。

「いい気味だ…」

今頃残された進藤がいたたまれない思いをしているだろうと思うと胸が空くようだった。

あの女は誰なのだと問いつめられ、雰囲気を壊したと冷たい視線を浴びているだろう。

(少なくともあの女は別の男に乗換えただろうな)

どこの世界にやっかい事を抱えた男を好きになる女が居るだろうか。ましてや楽しく遊びたいと思っているなら尚更。

「一人で寂しく飲めばいいんだ」

最年少本因坊だの、若手人気ナンバーワンだのちやほやとされることなく冷たい空気の中で一人不味い酒を飲めばいい。

ぼくにこんなことまでさせたのだから当然の報いだと思った時、聞き覚えのある声が後ろから追いかけて来た。



文:しょうこさん





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