〜6〜

彼の名はヒカル。
最近この国にやって来たミツバチです。
明るく気さくな性格なので、皆の人気者です。
ヒカルは碁が強いので、
あちこちで対局の相手を頼まれます。
初心者でも面倒がらずに楽しく打ってくれるので、
いろんな所から声が掛かってくるのです。
評判を聞きつけたオオカミにも指導碁を頼まれて、
毎週この時間にこの家を訪れることになったのでした。
オオカミがヒカルに指導を頼んだのは、
碁が強くなれば
アキラの気を引くことが出来ると考えたからです。
でもすぐには上達しないとわかると、
地道に努力するのはやめて、
もっと手っ取り早い方法を取ってしまいました。
魅力的な棋譜を並べて欲しいとヒカルに頼んで、
まんまとアキラを罠にかけるのに成功すると、
オオカミは指導碁の約束なんて
すっかり忘れてしまいました。
今日はヒカルが来る日だということも、
すっぽり頭から抜け落ちてしまっていたのです。
「なんだオマエか。
これから食事だから帰ってくれ。
指導碁はいらなくなったから、もう来るなよ」
股間を押さえながら
失礼なことを唸っているオオカミに、
ヒカルは冷ややかな視線を投げました。
ここに来るのは週に一度、
それもまだ数回だけのことですが、
オオカミの打ち筋にはどこか邪なものが潜んでいて、
最初から好感は持っていなかったのです。
それでも強くなりたいという気持ちには応えたくて、
今まで付き合ってきたのでした。
謝礼をもらっているわけでもないし、
契約を交わしたわけでもありません。
オオカミが碁に興味を無くしたのなら、
通うのをやめるだけのことです。
でも、オオカミが食べようとしているウサギのことを
ヒカルは知っていました。
先週ここに来る途中で、
アキラが一人で棋譜を並べているのを見掛けたのです。
その翌日には早速、
対局を申し込みに行ったのですが、
アキラの姿は見当たらず、
それっきり行方がわからなくなっていたのでした。
ヒカルはアキラの手足に、
縛られた痕がついているのに気が付きました。
黒い革のベルトが巻きつけられた碁盤には、
自分が頼まれて並べた石がそのまま残されています。
何が起こったのか察したヒカルは、
部屋の隅に投げ捨てられていた上着を拾い上げると、
そっとアキラに着せ掛けてやりました。
そしてオオカミを睨みつけながら言いました。
「こいつは今までの指導代だ。
オレがもらっていくんで文句はねえよな?」
