〜6〜 






コスプレの回数が増えるにつれて、
アキラはこのゲームに抵抗を覚えなくなっていた。

それどころか、一晩に一度だけの変身で許されるのが物足りなくて、
欲求不満で眠りが浅くなり始めている。


決して羞恥心が薄れたわけではない。

それなのに、日常ではあり得ない格好を強いられ、
無条件で従うのが快感になってしまったのだ。


恥ずかしければ恥ずかしいほど、体の奥がジンと痺れる。

ヒカルの熱い視線にさらされてフラッシュを浴びていると、
胸がドキドキして興奮して、・・・


もっとめちゃくちゃにして欲しいと身を投げ出してしまいたくなるのだ。



ヒカルは毎回、心底嬉しそうな顔を見せてくれはするけれど、
衣装を差し出し、
アキラを褒めちぎって写真を撮る手順を崩すことはない。

彼はアキラを指導する義務を果たしているだけなのだ。
アキラが従順になることを覚えるように。

コスプレという異文化を受け入れて、
寮に馴染み、仲間との共同生活に溶け込めるようにと。


その証拠に撮影が済んだ途端に、「お疲れ〜」の声で魔法の時はあっけなく終わり、
毎日律儀に、単なるクラスメイトの関係に戻っているではないか。

コスプレに慣れて、ゲームを楽しみにしているなどと気付かれれば、
甘美な罰を受ける理由がなくなってしまう。


アキラは自分の心を抑えて、ことさらぶっきらぼうに振る舞い、
冷淡な態度を崩さないように気をつけていた。

しかしヒカルが誰にも見せずに大切にコレクションしている写真を一瞥すれば、
アキラの心境の変化を見て取るのはたやすいことだったのだ。



朝から待ち遠しく思っていた罰ゲームの時間になり、
ヒカルはいつものように衣装をアキラに手渡した。

耳と尻尾、レオタードとブーツとレースのエプロン。


「このエプロンはオレの取って置きなんだ。オマエにつけてもらうのを楽しみにしてたんだぜ。
・・・なあ、レオタードってさ、ネコの毛皮の代わりに着るだろ?
だからネコの立場で考えると、裸にエプロンだけってことになるんだよな」


アキラはそっけなく衣装を受け取ったが、バスルームでいつもより念入りに着替えると、
そのまま鏡の前で考え込んでしまった。

こんな透ける素材のエプロンでは、
服を着ていなければ裸身が丸見えになってしまうことだろう。

進藤は自分に、レオタードを着ないでエプロンをしろと言いたかったのだろうか?
それとも、思い切り恥ずかしそうな演技をしろというつもりなのだろうか・・・


黒ネコのコスプレは、もう何度もしている。
進藤はいつも、とても似合うと言ってくれた。

ボクは普通にしているだけで、黒ネコそのものに見えるって。
だからいつも通り自然体でいれば、満足してもらえるはずだった。


進藤にとって、黒ネコとボクとは同じだと仮定してみよう。
エプロンをつけたネコの気持ちはまったくわからないけど、自分に置き換えてみれば、
進藤の言葉の意味がつかめるかも知れない。

ネコの扮装をするのではなく、塔矢アキラのコスプレをするように要求されたら、
ボクはどうするだろう。

裸のまま、レースのエプロン一枚だけを身にまとって・・・・・・



アキラは意を決すると、しなやかな足取りでバスルームから進み出た。
そのきっぱりとした態度には、羞恥心のカケラも見られない。

気品あふれるネコはヒカルの前でふと足を止め、そのままじっと見つめてくる。
裸エプロンという格好であっても、その姿は雄々しく、威厳に満ちていた。






ヒカルは一瞬、茫然として見とれていたが、
アキラが机の上のカメラにチラッと視線を向けると、あわてて撮影を開始した。

アキラの表情は冷ややかであるかと思えば得意げになり、
時には甘く、時には可愛らしくと、目まぐるしく変化する。

そのどれをも逃すまいと、ヒカルは夢中になってシャッターを切るのだった。










やがてメモリーがいっぱいになったので、ヒカルはカメラを下ろした。
そしてついにその口から、アキラが恐れていた言葉が告げられたのだ。

「塔矢、よく頑張ったな。今夜で罰ゲームは終わりだ。
もうオレが教えることは何もないよ」




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