トナカイ×サンタ 〜1〜






ヒカルとアキラの二人は、
ある企業が企画したクリスマス・イベントに参加していた。

そこの会長は日頃から、囲碁の普及に尽力している温厚な紳士なので、
年末の多忙な時期にも関わらず大勢の棋士が集まっていた。

子どもと碁との触れ合いを目的としたパーティーで、
少しでも親しみやすくという考えから、
大人は全員、トナカイかサンタの仮装をさせられている。

…その眺めは華やかでもあり、ちょっぴり滑稽でもあった。





衣装は主催者側で用意したものを、
当日受け取り、その場で着替えることになっていた。

参加人数が多いのでなるべく早めに来て欲しいと言われてはいたが、
ヒカルもアキラも午前中に他の仕事を抱えていたので、
会場にたどり着いたのはパーティーが始まる時間、ぎりぎり。
彼らがどんじりだということで、衣装も二人分しか残っていなかった。





「え!これ着るの?
トナカイには違いないけど、肌の露出、多すぎるんじゃねえの?」

「申し訳ございません!
いろいろなデザインをご用意してはいたのですが、
先着順で選んでいただいておりましたら、…」

どうも数の読み違えがあったらしく、係の女性はおろおろしていた。
すぐに代わりの衣装を手配するとは言うが、そろそろ会も始まる時間だ。

このイベントの目玉である二人が遅れて参加するのは申し訳ないし、
かといって、
先輩棋士が全員仮装しているのに、自分たちだけスーツ姿ではいられない。


「進藤、君が嫌なら僕がトナカイになるよ」
「ダ〜〜!ダメだってば!!お前はこっちのサンタをやれ」

ヒカルが指さしたサンタの衣装は真っ赤なローブで、
足元まですっぽり覆うタイプだから素肌が見える心配はない。
アキラの玉の肌を他のやつに見せてたまるかと、
ヒカルは急いでトナカイの衣装をひったくった。





イベントが始まってからはファンの相手に忙しく、
お互いに言葉を交わす暇もなかったが、
ちらちらと盗み見たアキラは慣れぬ衣装のせいか、
いつもよりゆったりとした動きで、
赤い衣装から覗く指が、ことさらに白く優雅に感じられた。

アキラが女性たちからうっとり見つめられていると面白くないが、
子どもたちに四方八方から裾を引っ張られて、
衣装を押さえておろおろしている姿は微笑ましい。
つい、にやけているところを見つかってしまい、
眼光鋭く睨まれて、ヒカルはひょいと首をすくめた。





指導碁をしたり記念撮影に応じたりしているうちに、
やがて会はお開きになった。

一番人気を分け合ったヒカルとアキラは、
パーティーが終わってからもファンに取り巻かれていたが、
気を利かせた会長がさりげなく、彼女たちをお茶に連れ出してくれたので、
残された二人は溜め息をついて、
ひとけのなくなった会場の椅子に座り込んだのだった。











「あ〜!疲れたなぁ…」

「ずいぶん盛況だったね」

「しっかし、二十歳も過ぎた男にフツー着せるか?こんな足むき出しの服…」

「君、嫌がってる割には似合ってるよ」

「そっかぁ?」











「まぁ、お前までこの衣装じゃなくてホッとしたけど」

「…それにしてもすごい熱気だったね」

「うん、汗びっしょり。お前はもっと暑いだろ?いいから、それ脱いじゃえよ」

「いや、僕はこのままでいい」

「ん?なんで?」

「別にどうでもいいじゃないか」

「……」











「ちょっと失礼〜」

「あっ!やめろ!!」

ヒカルはアキラのローブをめくると、そのまま固まってしまった。

「…なんで?」

「……」











ヒカルは更に深く中を覗き込むと、驚きの余り息を呑んだ。

「うそ。お前、マッパ!?なんで?」

「うるさいな。」

「だ、だって、……」

「…更衣室で着替えようとしたらメモが入ってて、色移りするから下に服は着るなって、…」

「それで?」

「だから着てたものを脱いだんだけど、専用の下着があるはずなのに行方不明で」

「…うん」

「探してるうちに僕が着てた服まで消えてしまって」

「マジかよ」

「僕は男だし、…とにかく中を覗かれなければいいんだから」

「んで、そのまま出て来たってわけ?」

「ああ。時間もなかったし、騒ぐほどのことでもない」

「え〜、信じらんねぇ!ペロッとめくられたら終わりじゃん」

「そんなことするのは君だけだよ」

「よかったな。俺みたいなガキが混じってなくて」

「ふふ。ホントだね」






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