散る桜





碁会所からの帰り道、
アキラは突然ヒカルの袖を引っ張ると
小さな空き地へと入って行った。

夕暮れ時で他に人の姿はなく、
満開の桜が冷たい風に
しきりと花びらを散らしていた。

「塔矢、どうした?話でもあるの?」
「ううん、・・・ごめん」

アキラはいきなりヒカルの肩に頭を預けた。
艶やかな黒髪が揺れて、
舞い落ちる花びらが
次々と弾かれては薄闇に消えていく・・・

微かにアキラの体が震えて、
寒いのかと顔を覗き込むと涙が頬に光っていた。

「・・・何だかわかんないけど、とにかく俺がお前を守るから。
ずっと一緒にいるから安心しろよ」

「本当は君にだけはこんな姿、見せたくないのに・・・」

「えっ?」

「だって僕が一番恐れているのは君なんだから。
最大のライバルに弱みを見せていいわけないだろう」

「そっか・・・」

「だけど、僕が涙を流して泣けるのは君の前でだけなんだよ・・・」

謎めいたアキラの言葉に戸惑いながらも愛しさが胸に溢れて、
ヒカルはアキラの体を力いっぱい抱き締めた。

アキラは花が開いたように微笑んで、
しっかりと抱き合った恋人たちの上に、
音もなくただひたすらに白い花びらが降り続いていた。